1日1本のアニメ映画を要求する!

嫌いな小説は森絵都の「カラフル」

70.サカサマのパテマ A★

概要:地に足をつけて暮らす種族の少年と、地下に住まい空へ向けて落ちていく種族の少女のボーイ・ミーツ・ガール。

感想:これは「アニメーションでしか描けない作品」。要はロックビルの神殿の表裏がひとつの物語を作ってる感じ(あれは特に理由もなく上下が反転してたよね)。重力が互いに逆転する世界を独特なカメラワークで示すという、見てて酔う作品。
これに「道徳の対立構造」などを取り入れ、中盤から舞台の世界を変える(視点を逆転させる)、それを協力させることで独特の緊迫感とコミカルさを生み出している。作画の人の脳みそどうなってんだこれ…。アニメにおいて上下って結構ないがしろにされやすい(頭が上、足が下って決まっている)ので奥行以上に顧みられることのなかった才が存分に発揮されている。今はもう「浮遊感」「飛行感」「躍動感」の作画ノウハウは十分にあるんだけど、この作品は『手を離すと空へ落ちる』のでそれらが存在しないどころか「底なしの穴」になってしまう。空という爽快と自由のシンボルが死や破滅という不吉なものになってしまうのだ。
ストーリー自体は味付けこそ濃い口だが割と平凡で(オチも上下反転にふさわしいとはいえ、この手のサブカルにどっぷり染まってると予定調和感あるよね)、この平凡さはいわゆる長く気取ったセリフ回しのようなオタク的外連味が少ないことを意味しているので、天地の逆転の世界観を存分に楽しめる。主人公が男女になっているのも、男同士だとホモホモしく女同士だとオタオタしいからという消去法感もある。あと特殊すぎて日常シーンが描けないってのもあるんだろうけどあんまり無駄なシーンがないのもいいよね、すべてが最低限の描写にある程度の肉付けがしてあるだけ。そのシンプルさがよい。ただ高所恐怖症には地獄じゃねぇかなこれ…玉ヒュンな描写がやたら多い。
アニメって最近は「途中で奇跡が起こる!不思議が起こる!」みたいなのが多いけど、異文化交流ものを作画と組み合わせて上下面での壮大さを示すってのはかなりの意欲作だと思う。これは本当にぜひ見てほしい、ネトフリで見れるアニメ映画10本見るよりこれ1本見る方がよほど価値があると思う。ただ先駆が偉大過ぎてこの後追いができないのもまた確かな気がする…「上下反転の共存」っていう舞台を作るのがそもそも難しいんですよね。
というわけで、おそらくオンリーワンの作品になるでしょう。久々に見たがあのハラハラした感じが本当に落ち着かない、ぜひ見てほしい!