1日1本のアニメ映画を要求する!

嫌いな小説は森絵都の「カラフル」

101.天気の子 B

概要:晴れ間を呼び込む超能力を持った女の子と家出少年の織り成す、ひと夏の出会いと奇跡の物語。

感想:この作品はいわゆる「セカイ系(ここでは「90年代~00年代前半にオタク界隈で人気を博した、ヒロインと世界の二者択一もの」という意味)」で、この要素を強めるために主人公の反社会的な性格を過剰なほどに際立たせた結果だいぶ人を選ぶ出来になったと思う。ただこのアニメは基本的に「社会から愛されずつまはじきにされてしまった人々の物語」でもあり、そのやるせない雰囲気に感情移入ができたとき、最後の見せ場がぐっとくる。ルギア爆誕ハナコのセリフじゃないけど、「自分にとって世界の秩序よりも身内の命の方が大事に決まってんじゃん」ってやつで、それをラストシーンで反対の視点から見る。つまり「お前が恋を選んだせいで多くの人が迷惑をした」と。そこはやはり秒速以前の新海誠らしい恋愛観である。青臭い高校生の目線から都会を見た時の非情で冷淡な感じやかなりアングラな雰囲気なんかもあって、東京のあのごみごみした感じを知っている人には感情移入の度合いが高いかもしれない。
ちょっとパンチの弱いオカルティックな要素だとかもあって評価の難しい話なのだが、ただやっぱそこは「売れる」ことを覚えた新海誠。十分な面白さを備えた作品に仕上がっていると思う。ただ新海誠に言いたいのは、あんた何回山手線沿線(特に新宿)を出すんだよって点だ。「雲の向こう、約束の場所」でさえ、ユニオンの塔のモデルは池袋ですからね。都会者に非ずば人に非ずという気分になってしまう。あの辺になじみのある生き物だからなおのことね。細田守は国立を出したんだ、そろそろアニメ映画はぽんぽこ以外でも多摩を出すべきなのである。耳すまだとか一週間フレンズ。だとかシャニマスだとかで聖蹟桜ヶ丘はたびたびロケ地に使われるが、もっと奥多摩とかあきる野とかさぁ。
この作品で特筆すべき点は、英題の「Weathering with You」。天気を示すWeatherと、「(悪天候などを)乗り切る・耐える」を意味する動詞Weatherをひっかけ、日本語の原題である「天気」の要素を残しつつ「君と乗り越える」という新しい意味合いを出すことに成功している。名訳って単なる言葉遊びになりやすいのだが、これはぜひ語り継いでいきたい名訳だ。
あと、これは上映されていた当時はまだ冷え冷えとしていた。ちょうどこの映画の後半あたりからだんだん暑くなってきて、感情移入の度合いが強まったなぁという気分になったものである。
それにしてもセカイ系とかなろう系とか平和ボケとか、自分の気に入らない思想を批判する言葉って便利だよねぇ。人と感想を共有することがどれほど無意味か、こういう言葉が端的に示してくれているよ。