概要:リコーダーがまったく吹けないのび太は音楽の授業が憂鬱で仕方なく、「あらかじめ日記」を悪用して「今日は音楽がなかった」と書いてしまう。「音楽の授業がない」という意味で書いたものだったのだが、世界中から音楽が喪失してしまった。のび太はドラえもんにとても強く叱られて猛省してリコーダーを練習するが、不思議な少女がそれを気に入る。そしていつもの5人が演奏をしていると、その少女がすっかり彼らを気に入る。その夜、学校の音楽室に呼び出された5人は、少女「ミッカ」に「ファーレの殿堂」と呼ばれる音楽を力にする宇宙船のような場所に案内され、音楽(ファーレ)が力を産む場所であり、ここに力を呼び戻してほしいと頼まれる。しかし一瞬でも音楽が消えた世界には「ノイズ」というとても厄介な菌糸がはびこってしまう。話は次第に、地球を覆おうとするノイズを倒す演奏会へと変わっていく。
感想:子供向けのアトラクション描写を強めにしつつ「音楽のすばらしさ」を映像化している作品。すごく宗教的なのだが、オリジナル映画にしては完全に一皮むけている。あと「音楽=自由」という概念は「新鉄人兵団」とも共通するテーマだ。オタク間でもすさまじく評判が良かったのでどんなもんかと思ったのだが、これは評判がいいのも分かる。タイトルの回収も美しいし、終盤の「音が消える演出」から「地球にあふれる音」へつながるのがぞわっとくる。素人の奏でる音楽がちゃんと下手なのもいいですよね。ミュージックビデオあじがあって、ここにきてドラえもんの中でもいい意味で異様な作品で、実験的な要素が強いながらも成功している。
さらに序盤を中心に所々「白鳥」の意匠が挿入されてるんだけど、芸術家が最後に世に出した作品を、英語圏では「Swan song」、白鳥の歌と呼ぶわけで、そういうところの暗喩なんかもきっちり行っている。つくづく思うんだけど、ドラえもんの映画ってなんでこんなヒットメーカーなのだろうか…クレしんとかポケモンとかハズレがひどいじゃんよ。
ただ本当にすごく宗教的で、そこはかなり好みが分かれると思う。音楽ってのは、たとえば日本の浪曲や軍歌みたいに滅びていったものってのもあるわけでしょう?英語圏の人には東アジア(日本、中国など)でロックがウケないことをバカにし、逆に我々はロックがじゃかじゃかうるさくていらつく。子供向けのアニメにそれを言うのも無神経だけど、俺はどうしてもそういう滅ぼされた側の視点を持ってしまうから物語を楽しめないって難儀な性質がある。
あと「あらかじめ日記」は現代オタクの好む道具だなぁとは思う。「スカルガールズ」の願いが叶うストーリーとか、「ジョジョの奇妙な冒険」のメタリカ戦のエピタフとか、好きじゃんね。
これを見る直前に偶然「砂の器(1974年版)」を見たんだけど、やっぱ音楽に熱意を乗せる演出ってのは映画ならではだなぁとしみじみ思う。50年前に大人たちを震撼させた演出が、50年経って子供たちを震撼させる。たとえ音楽が変わっても、魂は受け継がれるのやもしれぬ。