概要:河川敷でのび太が野球のボールを探していると、子犬がボールを拾ってくれた。しかし直後その犬は溺れてしまう。のび太が助けてあげると、子犬はすっかりなついてしまう。今更捨てられないのび太は「イチ」と名付けてこっそり飼うが、そのうち捨て猫の「ズブ」をはじめ町の捨てられたペットたちが集まってしまい飼えなくなった。のび太は独断で3億年前に行き、そこで「進化退化光線銃」でイチの知能を進化させて「無料食糧製造機」の使い方を教え、明日必ずここに来ると約束して帰っていく。翌日ドラえもんはそのことを叱りながら3億年前に向かうが、「時空のねじれ」によってその1000年後に漂着。そこには擬人化された犬や猫がきわめて高度な文明を持った国を作っていた。そこでストリートチルドレン暮らしをしている、イチそっくりな犬「ハチ」と出会う。なんやかんやあってハチは1000年前のイチがのび太に会いたい一心でタイムマシンを独学で製造し、しかし時空のねじれに巻き込まれて1000年後の世界で幼児化した姿で漂着してしまった姿なのだと判明。2人の絆がひと時の出会いをもたらし、犬猫文明の者たちは宇宙へと旅立っていった。
感想:原作の名エピソードのひとつ「のら犬イチの国」を下地にした映画。原作のオチが面白く、寺院跡から発見された神の彫刻(今作ではノラジウムの塊になっている像)がじんわりとした余韻を与える。映画にできるだけのポテンシャルはあるのだが、やっぱり原作の素朴な味付けが好きだ。「のび太の像」の回収がちょっと強引なんだよね。
何度かアニメ化もされているんだけど、このエピソードに関しては原作が一番面白い。全体的にそっけなくて、最後の「神様の像」で、国の始祖となるイチが筆舌に尽くせないほどの深い感謝の念を抱いていたことをたった1コマで表してしまう。ギャグ色を持たせつつも奇妙な余韻を残す、まさに鬼才の腕が出ている。アニメ化されたものはちょっとウェットすぎて、原作の味を損なっていると思うのだ。ワンニャン時空伝も含めてね。
だがこの映画はのぶドラ世代にとって「ひとつの時代の終わり」を意味する、少しせつないものである。それだけに集大成感がすごく、様々な部分にドラえもんの、そしてその同時期を走り続けた藤子不二雄アニメのネタが仕込まれている。例えば念力目薬の「念力集中!」は怪物くんだし、この時期のお涙短編の要素も含まれている。「ドラえも~ん!」から始まるお約束をちょっと変えて「のび太くぅ~ん!」にしてたりと、最後だからと言わんばかりの型破りさもある。
やっぱもう声優さんに覇気がないんだけど、それでもやっぱ旧ドラ陣が最後とばかりに気合を入れて作っている作品なのでじんわりとこみあげて来るものがある。あとしずかちゃんが萌えキャラ化してたり、バトルシーンに気合が入っていたりというのは後のわさドラへの経験値になっている。だからこの映画は本当に、集大成というか、打ち上げというか、そういう感じの少しせつない空気が満ち満ちていて…シナリオそのものを楽しむ映画ではなく、小ネタや裏事情に思いをはせて見る映画、って感じなのだ。
いわばこの映画は、怪物くん、ハットリくん、キテレツ大百科、パーマン…そういったひとつの時代の終わりを意味している。長寿コンテンツもここ最近はすっかりあり方が変わりつつある。彼らが育ててくれたものと向き合う日が来ている。向き合えずに引き延ばしばかりになって死んでしまったアニメもある。死ぬことすら許されないアニメもある。昔に終わったものが今更リバイバルすることも多い。その中で、ドラえもんは旧時代の殻を脱ぎ捨てて新しい域へと到達し、進化を続けた。脱ぎ捨てられずに縮小したコンテンツもあるし、逆に衣替えして再び伸びたコンテンツもある。だけどちゃんと「アニメーションとして面白い」域に到達しているのは、ドラえもんくらいしかないよなぁと思うのである。
2024年、のび太役の小原乃梨子とドラえもん役の大山のぶ代が鬼籍に入った。ひとつの時代の終わりを、どうしても感じざるを得ない。小原乃梨子は未来少年コナンとかでも熱演してたしね…いやなものだね、生きるってことは思い出を一つ一つ失うことなのだ。
この映画のシナリオに関しては、短いながらも情報量が濃すぎない程度に描いていてよかったと思うのだが、人間不信を強く抱いてしまったズブとの和解がまったくなかったのがちょっと悲しい。身勝手な飼い主が悪いというのが回収されなくて、悪役になるために生まれてしまったキャラみたいな感じで…。
あと、この映画に直接関係する話ではないのだけど、ザ・ドラえもんズがこの集大成の前に抹消されているのは少し悲しい。別紙壮一などのお偉方や異常F愛者が、このドラえもんズ企画を「これはドラえもんじゃない」ととても嫌っていたからだというが…。よく「ステレオタイプが今のポリコレ以上に合わない」と言われるけど、オタクの中途半端な学はむしろ無学と大差ないなぁと思うのだ。