感想:映画自体はつまらないんだけど、2つの点で魅力がある。1つがブロリーという極めて理不尽な、原作とかけ離れた悪魔的なキャラ。「悟空を才能で圧倒している理不尽な敵」という旨味がふんだんにあふれている。細かい演技を見てみると、家弓家正さんの妙味が光る。一人用のポッドに乗り込む前の一連の流れは、ブロリーに同情し未練を残しつつも、サイヤ人特有の冷血な判断を下すパラガスの心理がにじみ出ている。レジェンド声優の演技力もあるんだけど、他の作品に比べるとちゃんと「表現」自体が行われているってのがいいよね。
そしてもう1つが「ブロリーMAD」と呼ばれる謎の流行。コマンドーや野獣先輩の本編のごとく「語録しか言ってない」のだ。パラガスのセリフなんて出るたびに吹く。
映画自体は「亀仙人いらないよね」「ベジータがヘタレすぎててイライラする」「この決着はひどい」みたいな感じで、ぶっちゃけボージャックよりは楽しいかな程度。ほんとにこの3つの要素は、アンゴルだのモアだのタコ学者だのシャモ星人だのというほぼモブキャラでさえ使いこなすブロリーMADでも黙殺されているだけのことはある。特に前2つは3~5分に1回入って話のテンポをめちゃくちゃに削ぐのですごくイライラするのだ。
しかしよくもまぁこの映画からあんなわけのわからん文化を生み出せたものだ…。いや、むしろブロリーというキャラが魅力的すぎたからこそ、他の虚無映画と一線を画した評価を得ているのかもしれない。何にせよドラゴンボールの映画でTier表を作る際に、虚無映画とつまらない映画、あるいはそれなりのものとつまらないものの間に「ブロリー」という専用ランクを作っていいかもしれない、そんな作品。つまらない映画をたった一人で面白くしてしまえているブロリーの理不尽感がすごい。「どうやって倒すんだよこんな奴!」に対してめちゃくちゃすっきりしない幕切れだからこそ、「ブロリーこそ最強」っていう認識がある程度納得いく共通認識になってるんじゃないかな、と思うのだ。
そして旧ブロリーは理不尽な破壊神であると同時に、己の中の衝動を抑えきれない「癇癪持ちの子供」のような一面もあるので、その人間臭さも魅力があるのかも。
新ブロリーのブラッシュアップは賛否両論だけど、俺はあれはあれでいいと思ってます。
鳥さが洋菓子屋だとすれば、バーダックや旧ブロリーは中国のパイナップルのお菓子みたいな感じで、「鳥さの味ではないがあれはあれでいいよね」「鳥さじゃこの味は出せないよね」って感じなのだ。それが鳥さの手にかかったら、「パイナップルのフルーツポンチとカステラみたいなシフォンケーキ」って組み合わせになっちゃうのはしょうがないと思うんだよ。うまいとかまずいで論じるべきであって、菓子の定義云々で話すのは明らかにずれている。そして困ったことにネットの議論ってのは菓子の定義を俎上に置いて「俺の方が賢いので」とアピールしながら相手を殴ることがほとんどだ。
つまり「ドラゴンボールらしさ」みたいな便利な定義で相手を殴るだけのものになっている。他人と感想を共有することがいかに無意味かがよく分かる。感想ってのは、自分が読み返せる形にしておけばそれでいいのだ。